一般論として…「ペンギン展示の侵入・脱出防止」について考える(^○^)!!

2012 年 3 月 7 日 水曜日

実は、これはかなり頭の痛い問題です。一般に、様々な動物を飼育・展示することに関しては、厳格に言えば各種の関連法規があり、かつ各々の施設に内規が整備されていて、とても簡単にはまとめられない深刻な問題です。ここでは、そういう法的な問題以外の、「一般論としての『侵入・脱出』に関する諸問題」について、簡単に眺めておきたいと思います。

さて、特に、屋外展示の場合は、この点に神経をつかう必要があります。…ということは、屋内展示が多い水族館より動物園の方が、この問題にはより多く直面することになります。

一般に、動物園は、ペンギンに限らず、従来から「捕食者の侵入」と「展示動物の脱出」には非常に気を遣ってきました。例えば、脱出すると人間に危害を与える可能性がある動物については、大小を問わず厳重に管理され、何重もの「安全対策」が講じられています。また、万が一そのような動物が脱出した場合に備えて、「回収・対応訓練」が定期的に行われていることは、ニュースでもよく紹介されますから、比較的知られているでしょう。

「動物そのものの脱出」もそうですが、危険な動物から飼育担当者や獣医師などのスタッフを守る配慮も必要です。あるいは、観客が危険な動物の展示施設内に入ったり、イタズラしたり刺激したりできないような施設的配慮も不可欠です。

これと並んで、「人間に危害を加えるおそれのない動物」に関しても、いくつかの点について、基本的な配慮をする必要があります。

まず「侵入」について。基本的には、展示されている動物の捕食者が入れない配慮が不可欠です。日本ではクマ、キツネ、イタチ、タヌキ、ハクビシン、テン、ネズミ、ヘビ、猛禽類、野生化したイヌ、ネコ等と共に、毒性の昆虫、腐食者としての鳥類(カラス、カモメなど)についても考慮する必要があります。

だいたいは、柵や壁、深い堀、ネットなどが用いられますが、これ以外にも電柵や特定の「匂い」を利用することもあります。だから、昔から広く使われていた「頑丈な鉄製の檻」は、動物の脱出・侵入を効果的に防止するという観点だけから見れば、非常に効果的な仕組みなのです。かといって、私はそれが良いといっているわけではありません。

一方、不心得な観客が展示場内に侵入しないよう、様々な仕掛けをしますが、人間に危害を加えるおそれのない動物の場合は、むしろ「観察しやすさ」や「近さ」が重視されることが多いので、その「展示効果」とのせめぎあいになります。この微妙なバランスを読み間違えると、場合によっては「ペンギン盗難」などという事態になってしまうこともあるわけです。

さて、一方、「脱出」です。「鍵のかけ忘れ」とか「扉の閉め忘れ」などという「ウッカリミス」がたとえあったとしても大丈夫なように、二重三重の安全対策が施される必要があります。いわゆる「フェイルセイフ」の考え方ですね。これは、主に人間サイドの問題です。ちなみに、この考え方は、現在の動物展示施設においては「標準装備」で、必須の条件でもあります。

それと共に、飼育されている動物の生態や運動機能を十分配慮した「施設造り」が欠かせません。これは、古くはハーゲンベックによって100年以上昔に編み出された「無柵放養式」展示に、その起源があるといっても良いかもしれません。ハーゲンベックの手法は、それまで一般的だった「頑丈な鉄製の檻」に動物を閉じ込めるのではなく、観客サイドからの「眺め」から檻を全廃し(ただし、バックヤードには檻は残す)、深い堀や池を各々の動物の展示施設の境界に配置して、あたかも「全ての動物が同じ展示施設内にいるように見える」よう工夫されたものでした。

この手法は、20世紀初頭の「最新式展示手法」として一世を風靡し、世界中で採用され普及しました。『ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ』(岩波書店)にも記しましたが、ハーゲンベックが採用した「極地動物の展示」に「ホッキョクグマとケープペンギン」がひとくくりに展示され、しかも「コンクリートを白塗りして雪と氷を表現する演出」が評判をよんだために、この手法が現在もなお、世界各地に残存しているのです。これは「ちょっと困った負の遺産」ですね。

ハーゲンベック一族は、もともと魚屋さんでした。魚屋の副業だった「動物の売買」がいつしか本業になり、博覧会ブームや博物館ブームにのって、世界各地で「動物収集・販売」、「展示演出」を組織的に展開するようになったのです。中でも「サーカス」は有名で、「実入りの多い商売」でした。動物ショーは、扱う動物の生態や行動習性、運動能力を正確かつ詳細、実際的に把握し応用できなければ、実現したり運用したりできません。

ハーゲンベックは、把握した動物の運動能力を勘案して、展示する動物が実際に柵や堀を跳び越えられるか否か判断し、柵や堀の深さや幅や形式を工夫したのです。こうして完成した「動物展示形式」が「無柵放養式」です。

つまり、この方法のポイントは、「動物の生態や行動習性や運動能力を具体的・現実的かつ正確に把握する」という点にあります。これが、実は簡単なことではありません。ナゼなら、動物のことについて、私たち人間が理解し把握している情報や知識は、まだまだ圧倒的に不十分だからです。

その動物がどれだけ跳べるのか?どれくらいの坂を登れるのか?どれくらいの隙間を通り抜けられるのか?…等々といったデータは、通常の野生動物の研究では「十分に得られない」ことが普通です。また、これらの能力は、その動物の体調や年齢・性別など様々な個体差、ならびにその個体が置かれた状況、環境によって複雑に変化します。場合によっては「火事場のバカ力」なんてことだってあるわけです。

このブログでもご紹介致しましたが、私が監修したNHKの動物番組でケープペンギンのことを扱ったもの(『ワイルドライフ』と『ダーウィンが来た!』)を覚えていらっしゃいますか?あの中で、サイモンズタウンに生息するケープペンギンたちが、金網型の1メートル以上の高さがある柵をよじ登って乗り越えたり、小さな格子状の鉄棒の間をくぐり抜けたり…といった場面が出てきましたが、あれは決して「ヤラセ」ではありません。

また、これは6月に放送予定のペンギンをテーマにした科学番組ですが…、野生のペンギンたちの跳躍力や走力などについて、認識を新たにせざるを得ないような「映像」をご紹介できると思います。

つまり、「飼育・展示している動物の脱出・侵入対策」に、完璧はない!終わりはない!常にそう考え、覚悟してことにあたらなけれはならない。私は、いつも自分にそう言い聞かせて、具体的な施設の監修に臨んでおります。

生きものに関わるということは、日々、勉強と工夫、新しい事実との出会いの連続です。だから、楽しくやりがいがあるのかもしれません。

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