フォークランドでの海底油田試掘成功のニュースを聞いて思ったこと

2010 年 5 月 25 日 火曜日

5月6日、イギリスのインディペンデント紙が、フォークランド諸島北方沖合いで行われていた海底油田試掘成功を報じた。試掘を行っていたイギリスの石油開発会社=「ロックホッパー・エクスプローション」の株価は、たちまち53%上昇したという。

6日から9日にかけて、様々な追加情報が流れたが、私が、この件について初めて知ったのは、9日のこと。長年、フォークランド諸島でペンギン観察と保全活動を行ってきた斎藤さんからの第一報だった。

斎藤さんからは、いつも様々な「ペンギン情報」をいただいている。しかも、それらの情報は何れも正確で新鮮。本当に感謝しております。

しかし、「試掘に成功した」とはいっても、まだ「採算がとれる品質と量」であるかについては、これから確認していくのだという。
とは言うものの、様々な「キナ臭い」問題が深刻化してきている。

例えば、フォークランド諸島の領有権を主張するアルゼンチン(アルゼンチンはこの諸島をマルビナスと呼ぶ)は、「国連の場であらゆる法的対応」をすると宣言し、外交的対応に力を入れている。 一方、フォークランド諸島住民やイギリス本国では、「フォークランド紛争」以来の領土権問題やフォークランド諸島の経済的自立、イギリス本国自体の政治的・経済的不安定を少しでも解消する「グッドニュース」として、大歓迎しようという雰囲気が強いようだ。

こういう情勢下で、敢えて「フォークランド諸島の環境保全」を訴えようという雰囲気は微塵もない。なかには「深い懸念」を抱いている専門家もいるだろうが、まだ、そういう人々の声は聞こえてこない。外交(ことによるとまた「戦争」?)、経済、政治…、そういうファクターしか報道の水面上には現れてこない。

それが残念で仕方がない。

なるほど、イギリス、アルゼンチン、フォークランド(マルビナス)諸島住民にとっては、「環境問題」や「野生動物」の問題などは「目に入らない」優先度が低い課題だろう。

しかし、私はかつて「フォークランド紛争」の果てに注目された「自然の傷痕」が脳裏を離れない。また、今も続いているメキシコ湾の原油流出事故の映像が、瞼に浮かぶ。 「地雷原」を歩くペンギンの姿。原油で真っ黒になった海鳥たち。

「それは小さなこと」というのはやさしい。確かに、人間が大事だ。しかし、そういう価値観、発想、行動様式を無批判に肯定してきた結果が、今の「環境破壊」や「地球温暖化」をもたらしたのではなかったか?

「石油が出た!」というニュースは、いまだに現代人の理性を、環境と自然に対する敬意と注目とを、妨げ狂わせる「魔力」を持っているのだろうか?海洋資源の保全やクジラやマグロの保全にあれほど狂信的な情熱を燃やし、過激な実力行使を躊躇しない一部の人々が、なぜ今だに沈黙しているのか、私には理解できない。

フォークランド諸島沖で海底油田の開発を行っている石油開発会社の名前が「ロックホッパー」だというのは、なんという皮肉だろう!開発が行われている海域は、フォークランド諸島に生息するイワトビペンギン(=ロックホッパー)にとって、重要な「採食海域」だとする科学論文がある。「ロックホッパー」が昔からこの海域で生活し子育てしてきたロックホッパー達を駆逐しようとしているのだ。

フォークランド諸島に生息する6種類のペンギン(キング、ジェンツー、マカロニ、イワトビ、ロイヤル、マゼラン)たちにとって、極めて危険な状況が起きつつある。今後も、フォークランド諸島沖の油田開発をめぐる状況に注目していきたい。

コメント / トラックバック 5 件

  1. TABI より:

    先生、この話題を取り上げてくださってありがとうございます。

    なかなか日本では知らない人も多いので、とにかく多くの人に知ってもらえればと思います。

    私も6月初めに立ち上げる新ホームページで、この件も触れていきたいと思います。

  2. ダンチョウ より:

    日本の知らなかった一人です。

    油まみれのペンギンの写真を見ただけに・・・心配ですねぇ。

    とても複雑な心境です。

  3. 新山 より:

    私もフォークランド諸島の海底油田開発は知りませんでした。
    フォークランド諸島の領土問題は完全に解決したわけではないようですし、アルゼンチンはこの開発に反対しているようですね。
    紛争の種にならないといいのですが。
    また、海底油田の場合、やはり石油漏れが心配ですね。
    拡散が早いうえに回収が困難ですから。

  4. 上田一生 より:

    TABI 様、ダンチョウ 様
    コメントをありがとうございますm(__)m!!TABIさんの新しいサイトは、6月9日オープンだと伺っております。おめでとうございます!!このサイトからもリンクを張っていただけるよう、平川さんにお願いしております。今後の詳しい最新情報は、ぜひ、TABIさんの新サイトでご確認下さい!また、ダンチョウさん、お久しぶりです(^o^)/実は、フォークランド諸島周辺海域や南東大西洋海域=南アフリカ南西海域では、近年イワシ等、ペンギンの食べものになる動物が激減しているという情報もあります。いずれ、南アフリカのケープペンギンの状況についても詳しくご報告致しますが、こちらも楽観できない状態です。ペンギンをはじめとする海洋動物と海洋生態系の現状と将来について、みんなが知恵を出し合わなければならない時代が既に来ていると思います。

  5. 上田一生 より:

    新山 様
    コメントありがとうございます。海洋生態系はまだまだ「??」だらけです。油田開発からどのような影響を受けるかは、すぐに目に見えてわかることと、何十年も経たないとわからないこととがあると思います。しかし、戦争だけは違います。私は常々、「戦争は最悪かつ最大の環境破壊である」と主張してきました。人間が同じ人間の「大量殺戮」を競うのが戦争です。「勝利」のために、あらゆる基準が軽視され、歪められます。そして、やはり「勝利」のため、際限のない「生産」と「破壊」が強化・奨励されます。戦争のための「生産」は、野生動植物や自然の生態系にとっては、「致命的な破壊」とほぼ同義語です。だから、ペンギンのためだけでなく、フォークランド諸島や大西洋でくらす全ての生命のためにも、イギリスとアルゼンチンの関係者が冷静に対応して下さることを、心から願わずにはいられません。

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