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石田先生の新刊は「動物園論」入門書、様々な角度からの問題提起が、重く、新鮮です!

2011 年 1 月 26 日 水曜日

またまた最近、日橋一昭園長にお会いしました。その時、『日本の動物園』(石田おさむ著、東京大学出版会、2010年7月5日発行)を読みました、と報告しました。
この一冊も、日橋園長の「まだ読んでないの!?」の内に入っていたのです。

はじめに、お詫びをしなければならないのですm(__)m!!実は、一部の方はご存じだと思いますが、上田は、この原稿を「携帯メール」で打っています。
で…、石田先生のお名前の「おさむ(「しゅう」とも読む漢字1字)」が、どうしても変換できない(携帯メールの辞書にない)のです。大変申し訳ございませんが、そんな訳で、お名前の部分を「平仮名表記」に致しました。どうかお許し下さい!!

さて、石田先生の新刊の話です。

日本の動物園 表紙 日本の動物園 帯

一口で言うと「動物園概論」という感じです。
原本の帯にある「主要目次」をご覧いただければおわかりのように、動物園の全ジャンルについて、総合的な分析を加えている、といえるでしょう。

ただし、「おわりに」に記されている通り、「外国の動物園」への踏み込みを意図的に控え、また、「技術論」にも立ち入らない、という姿勢を貫いていらっしゃる。著者自身の言葉を引用します。

「本書の主たるねらいは、日本の動物園の構造を分析することを通じて、課題と打開策を明らかにすることにあった。」

だから、日本の動物園の「系統的論考」ということもできるでしょう。本書には、個々の動物園を1つ1つ深く掘り下げた叙述はありません。動物園の活動や仕組みをテーマに、その傾向や課題について洗い直していく。そういう地道な作業です。

ある意味「教科書的」だ、ともいえるでしょう。ひょっとしたら、既にこの本が「博物館学」や「畜産」・「農学」等のテキストとして採用されているかもしれません。
おそらく、この分野では、最もよくまとまった「入門書」だと思います。

だから、この本に「動物園のほのぼのした話題やエピソード」を期待しても、裏切られるでしょう。
でも、それが大事なのです!長年動物園に勤務され、内側から「日本の動物園」を観察し自ら体現してこられた著者だからこそ、発言し提起することができることがあるのです。

という訳で、「真面目で堅い動物園本」がお嫌いな方にはお薦め致しません。でもね、本当に動物園を愛している方には「見過ごせない」、「聞き流せない」話題が満載です。
ここでいう「動物園ラブ」は、決して「好事家的愛」ではありません。「好事家」と「専門家」の違いの1つは、ちゃんと理論的な話についていけるか?ということ。

試しに、楽しい、かわいい、面白い…、以外の表現で動物園を言い表してみて下さい。あなたの「動物園」はどんな言葉にふさわしいところですか?この本には、そんな魅力が一杯なのです!

さて、いろいろ言いましたが、私が一番気になった著者の考え方をご紹介致しましょう。
それは、「欧米の動物園一辺倒」ではないこと。言い換えれば、動物園は欧米が本家なんだから、それをお手本として「日本の動物園の悪いところを改善していこう!」という主張に批判的なことです。

これまでの「動物園論」は、ともすれば「欧米礼讚」に終始する傾向がありました。極論すれば、彼等こそが常に「先進的」であって、日本の動物園はいつもそれに追随すべきだ、という発想や主張です。
だから、意地悪な言い方をすれば、日本の動物園を悪く言えば言うほど、「ああ!素晴らしい動物園論だ!!」と称賛されるような傾向って、どこかにありませんでしたか?

私は、決してバリバリの愛国者ではありませんが、なんでもかんでも、動物園に関して「欧米は善、日本は悪」というのは、「どっか変?」だと思います。また、あちらの技術や思想を無批判に模倣するのもいかがなものか?とも思います。

皆さんは、いかがでしょうか?

さて、最後に、例によって「ちょっと気になること」、あるいは「物足りなかったこと」を、1つだけ挙げてみたいと思います。

一番気になったのは「動物園の歴史」に関する部分です。この分野では、既に若生先生のご研究や、佐々木時雄氏という「大先達」の存在があり、またいわゆる『上野動物園百年史』の存在を無視するわけにはいきません。
また、1995年に石田先生が立ち上げられた「動物園研究会」や、「人と動物の関係学会」等で、数々の「個別研究」が積み上げられてきました。

しかし、「歴史研究」の基礎中の基礎ともいうべき「一次史料」の組織的発掘や整理・保管、公開は、果たしてどれくらい進んでいるのでしょうか?
書かれた史書の学問的・専門的良否は、「一次史料」の「史料批判」が精確・厳密に行われているか否かにかかっています。
しかし、私には「動物園史」の一次史料が十分な専門的分析や取り扱いを受けているとは言い難い状況にあると思えてなりません。

例えば、日本の動物園史を語る際に、「古賀忠道園長」の業績は決して無視できない重要なものですが、古賀氏の手帳やメモ、様々な草稿や映像資料の一部は、散逸・廃棄寸前の状況にあります。
ごく一部の「史料」が、専門的分析や記録作業を経ることなく、「場当たり的」に紹介されたり引用されたりしている。そういう印象が拭えません。

何年か前から主張していることですが、そろそろ「動物園、水族館の本格的史料調査、整理、保管、公開」に着手すべきではないでしょうか?それなくして、積み上げられる「園館史」の質は、いわゆる「個人的回想録」に近いものになってしまうでしょう。
格調高く、実効性のある「動物園論」の基礎には、しっかりした「動物園史」編纂が不可欠だと考えます。

コメント / トラックバック 2 件

  1. penguinman より:

    お世話様です。最後のご提案は全くそのとおりだと思います。さらに日動水の会議ももっとオープンにするべきです。変な意味ではなく、参加者からの会費がもっと入れば、それだけいろんなことに使えるということではないでしょうか?

  2. 上田一生 より:

    penguinman 様

    コメントをありがとうございましたm(__)m!!
    日動水の組織や活動については、私はまだまだ不勉強でわからない部分がたくさんあります。
    組織の巨大さとそれにも拘わらず資金が少ないこと、動物園と水族館との協調と連携の課題等々…、漏れうかがうことは時々ありますが、難しい組織上の特性があると思いますので、簡単にはコメントしにくいテーマですね(~_~;)
    また、いろいろ教えて下さいm(__)m!!

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