ペンギン会議20周年記念大会報告「ボースマ博士という人〜その2〜」

2010 年 12 月 21 日 火曜日

12月7日(火)、ボースマ博士一行の宿舎である亀戸駅前のホテルのロビーに、私は約束の時刻を15分ほど超過して到着しました。総武線の事故に巻き込まれて、遅刻してしまったのです。
もちろん、電話で、遅延の旨は伝えてあったのですが、当日のエスコートは私1人でしたから、博士一行は、見知らぬ東京のホテルでちょっと心細かったはずです。

しかし、私が「ごめんなさあ〜い!!」と言いながらロビーに入ると、ソファーから立ち上がった博士は、「いいのいいの!」と言いながら、「ハイ!プレゼントね!昨日渡し忘れてたの」と、笑いながらズッシリ重いお土産を下さいました。

ライデン夫人が「開けて見せて!」と仰るので、アメリカ式に包み紙をバリバリ破ろうとして「アッ!!」と気づきました。
ラッピングは、「シロクマさんとペンギンさんパターン」の絵柄だったのです!かなり、マニアックな演出ですね!!

ペンギンの「陶器のカラータイル」外装 ペンギンの「陶器のカラータイル」 シロクマさんとペンギンさんパターンの包装紙

中身は、ペンギンの「陶器のカラータイル」。

「左がアフリカンで、右がフンボルトかな?」ライデン氏が覗き込みながら、楽しそうに呟きます。
「それじゃハイブリになっちゃうじゃない!?」と答えながら、ボースマ博士も楽しそうです。

「あの、5日に頂いたピンズもスペシャルバージョンでしたね!」と言うと、「あの中の、『ディズニーファウンデーション』のピンズは、スタッフ専用で市販されてないのよ!チリでのあなたとの約束をやっと果たせたわ!!」とのこと。
アッ、そうか!と、思い出しました。

1998年、その2年前に日本で開催された国際会議の流れを受けて、フンボルトペンギンの「生息地生息数評価国際会議」が、チリで開催されました。
ペンギン会議からは、私を含めた3名が参加し、フンボルトペンギンの生息状況と具体的保全方法について、専門的な分析が、数日間にわたって行われたのです。

ある日の昼食の時、たまたま席が近かったボースマ博士のジャケットに、ディズニーのアニマルキングダムのピンズがついていることが話題になり、彼女がその「顧問」をしていることを知りました。
「これいいでしょ!今度、1つ新しいのを手に入れたらプレゼントするわね。」「約束」とは、そのことだったのです!

ボースマ博士の「ペンギン研究歴」は、40年近い長さです。
1960〜70年代以降、ペンギン研究をリードしてきたイギリスのバーナード・ストーンハウス博士や数人の若手研究者と共に、1970年代後半には、「ペンギン生物学」を1つの独立した学問分野として確立していった主要メンバーの1人です。

今や、「ペンギン生物学」は、特に1990年代以降は、他の学問分野、例えば海洋生物学、保全生物学、歴史学、教育学、経済学等ともリンクしながら、より広い関心領域を持つ「ペンギン学」へと発展を遂げつつあります。
その1つのきっかけをつくったのが、「ペンギンは典型的なモニタリングアニマルである」という主張と認識でした。

皆様、ご存じのように,私自身も、例えば『ペンギンの世界』(岩波新書)や、過去の様々な講演の中で、この点を強調してきました。
つまり、ペンギンは「海の環境を敏感に反映する鏡だ」ということです。ペンギンを注意深く観察していれば、海洋環境や地球規模での環境変動に関する何らかのデータが得られる。そういうこともできます。

この考え方は、すでに、1970年代後半には、ストーンハウス博士のグループによって提唱されはじめ、1988年の「第1回国際ペンギン会議」では、最も重要な共通認識の1つになりました。だから、私の主張は、その「受け売り」にすぎません。
しかし、私は、この考え方を、その生みの親であるストーンハウス博士やボースマ博士等から直接、国際会議やフィールド調査を通じて学んだのも事実です。

今回の「20周年記念ペンギン会議全国大会」のボースマ博士の演題に「海の代弁者としてのペンギン」という訳をあてたのも、まさにそういう意味があったからです。

しかし、正確には、博士の言う「Ocean Sentinels」の「Sentinels」とは「歩哨」のことです。
歩哨とは、軍事用語では「見張り」のことですから、博士の演題を直訳すれば「『海の歩哨』としてのペンギン」ということになります。
ここにこそ、ボースマ博士の「ペンギンへの思い」が凝縮されているのです。

成田空港に向かう快速電車の中で、私の質問に、博士はゆっくり思いを込めながら、次のように解説して下さいました。

「私が『歩哨』という言葉に込めた意味は、単純じゃない。それはわかるでしょ?
今までの『モニタリングアニマル』という言い方は、確かに科学的には正確だけど、ペンギン研究者の思いや、ペンギンたちの置かれた現状を正しく伝えられてはいない。そう強く思うようになったの。
あなたもその目で見て、闘ってきたように、今、この瞬間にも私たちの目の前で、ペンギン達はバタバタと死んでいく。天敵に食われるのではなく、人間が引き起こした大きく複雑な環境変動という敵の手で、殺されているのよ。
軍事的には『歩哨』というのは、ある意味『犠牲者』よね。
何もなければ無事だけど、一旦敵に狙われれば、真っ先に標的になって殺される。自らの『死』をもって周囲や仲間に危険を知らせる、しかも無言の内に…。
ペンギン達は、何も語らないけど、私達に、今、何か重要な危機が迫っていることを、身を挺して知らせてくれている。そういう意味を込めてるのよ。
私達は、彼等の『崇高な犠牲』を無駄にしてはいけないのよ。」

ボースマ博士のメッセージを、改めて真剣に受けとめようと思います。皆様は、いかがですか?

コメント / トラックバック 4 件

  1. penguinman より:

    お世話様です。ボースマ博士のおっしゃるとおりです。私はフンボルトの見張り役になります。

  2. 上田一生 より:

    penguinman 様

    いつも力強いコメントをありがとうございますm(__)m!!
    「フンボの見張り」、よろしくお願い致します(^o^)/

  3. むらペン より:

    ペンギンたちの歩哨、警告として受け取ります。私もpenguinmanさんを見習ってフンボ見守ります。

  4. 上田一生 より:

    むらペン 様

    コメントありがとうございますm(__)m!!

    「見張り」は大勢いた方が良いと思います。
    みんなで、ペンギンと海と地球の「今と未来」のことを「見張り」ましょう(^o^)/

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