ブログ

ペンギン本以外の本からペンギンを浮き彫りにする(いかにペンギンの理解を深めるか?)

2011 年 9 月 23 日 金曜日

昔々…、もう22年も昔、青柳先生との共訳で『ペンギンになった不思議なトリ』(どうぶつ社)を出版した時、「この本の特徴は?」という質問をよく受けました。その時に、必ず指摘したのは、「この本はペンギンの本ですが、ペンギンだけについて書かれた本ではありません」ということでした。

それはどういうことか?つまり、1つには、ペンギンを鳥類全体から眺め分析していること。ほかの鳥類との相違や共通点について、より広い視野でペンギンというユニークな海鳥の特徴をとらえようとしていることです。一見矛盾して聞こえますが、ペンギンのことをより深く、正確に理解するためには、ペンギンだけを見つめていてはダメなのです。ほかの鳥類や捕食者、あるいは生息環境についての科学的に正確な知識といかにたくさん出会い、豊富な事例を見聞きし、実際の経験を積み上げることができるか?そこに、単なる「オタク」と専門家とを分ける決定的な境界線がある。私は、そう考えています。

2つ目は、「人間との関係史」に深い関心を寄せ、これを時系列に沿って丹念にまとめようとしていること。原著者である、ジョン・スパークスとトニー・ソーパーが、テレビ番組の製作者であったという点も重要ですが、彼らが、この本以外にいくつかの自然誌を出版していたということも、見逃せないポイントです。イギリスの文化人に脈々と受け継がれる「博物学的伝統」が、自然史という視点をこのペンギン本に加えたのだと思います。

つまり、ペンギンについての理解を深める優良な手がかりは、ペンギンの論文や純正ペンギン本にのみ隠されているわけではありません。

今回から、何回かにわたり、そういう「周辺文献」をご紹介していきたいと思います。

『Animal Migration : Remarkable journeys by air, land and sea』(Ben Hoare著、Natural History Museum、2009年)表紙 『Animal Migration : Remarkable journeys by air, land and sea』(Ben Hoare著、Natural History Museum、2009年)なか見

まずは、『Animal Migration : Remarkable journeys by air, land and sea』(Ben Hoare著、Natural History Museum、2009年)から。動物の「わたり」と「移動」について、その基本的意義と分析、60種類におよぶ各種動物の「わたり」の実例と解説。それらが、素晴らしい写真と、最新の研究データに基づいて作成された図表とともに展開されています。

その実例の中に、エンペラーペンギンとマゼランペンギンが登場します。エンペラーの事例は、冬季の繁殖期における「海氷上の移動」に関するもの。マゼランについては、大西洋上での「長距離のわたり」に関する付図と解説があります。毎年6〜7月に反復されるマゼランの大量漂着の謎を解くカギの1つがここに隠されています。

その「謎解き仮説」については、機会をあらためて論じましょう。

まずは、「ペンギン本以外の参考文献」を、もっと丹念に読み込んでいくクセをつけましょう。

コメントをどうぞ

ページトップへ