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本格かつ正統派「水族館論」ここにあり!『新版水族館学〜水族館の発展に期待をこめて〜』(鈴木克美、西源二郎著、東海大学出版会、2010年12月発行)

2011 年 2 月 19 日 土曜日

大著です!しかも、これはもはや「一般書」ではなく、間違いなく「専門書」です。出版社も東海大学出版会ですし、著者のお2人も著名な研究者。
また、「まえがき」にも明記されている通り、今回(新版)は「博物館学との連携に軸足を移す」ということで、「大学の学芸員課程で履修される博物館学カリキュラムに準じて」内容が構成されています。だから、かなり「教科書的」でもありますね。

新版水族館学〜水族館の発展に期待をこめて〜

まず、帯がスゴい!「水族館『学』とはなにか」と、真正面から問いかけます。旧版(2005年刊行)でもそうですが、学としての「水族館論」にあくまでも強いこだわりをもつ、著者の主張がうかがえます。
その「宣言」とも言える部分を、まえがきから引用しましょう。

「水族館は遊園地ではない。(中略)水族館にはさらに自己啓発と自己主張が必要である。そのためにも、水族館とは何者かという理論的基盤としての『学』(logos)と、実践に当たっての『学』(graphia)の両面からの追求が必要であろう。
水族館に水族館学は必要、いや必須である。水族館はもっと社会に重視されていい。もっと力を尽くすべきであると、私たち両名は信じている。」

「水族館はもっと社会に重視されていい」という部分に、著者の、そして水族館という「世界」に生きる人々全てに共通する「叫び」を感じます。
この「叫び」は、おそらく動物園に関わる人々にも共通したものでしょう。

最近、次々に現れる「園館論」文献は、このような「園館人」の渇望、あるいは待望が、マグマのごとくこの業界内に蓄積し、ついに噴出し始めた、と見ることもできるでしょう。
ひょっとしたら、あの「旭山ブーム」が1つのきっかけをつくったのかもしれません。

しかし、そのブームよりも前、20数年前からこの世界の様々な方々と交流してきた人間の直感としては、ちょっと違うな!?という感じです。

つまり、こういう傾向は、単純な園館の「自己主張」や「自己顕示」、すなわち「ただ目立ちたい」という欲求から生まれたのではない、極めて必然的な経過だと思うのです。

環境や生きものに関する人間の認識は、最近半世紀で大きく変化しました。その急速な「世界認識の変化」は、人間生活のあらゆる側面に及びますが、動物園や水族館も例外ではありませんでした。
だから、1960年代以降、世界の動物園や水族館は大きな変革期に突入します。
日本では、「高度経済成長」の大波や「ベビーブーム」、「レジャーブーム」、「バブル崩壊」等の社会的刺激が、断続的に園館を揺さぶりました。

つまり、極端な言い方をすれば、「ただ生きものを飼育・展示していれば客は来るし、客は喜ぶ」。そういう、園館経営にとっての「古きよき時代」は、永遠に過ぎ去ったのです。
また、そういう認識が、この業界に生きる多くの人々に共有されていったのです。

だから、「真剣な声」が出始めたのでしょう。でも、それは、単純な「自己保存」、「自己防衛」などではなく、もちろん「言い訳」でもなく、切実かつ切迫した「自己実現」としての「意見表明」ではないでしょうか?

別の言い方をすれば、「園館の説明責任」です。この世界の人々は、社会に向かって自身の「存在意義」を、わかりやすく、しかも明快かつ根気強く説明していく「義務と責任」があるのです。
「黙って見ればわかる」という姿勢は、もはやなかなか通用しない時代なのです。いや、むしろ、自ら「意見発信」していくことこそが、これからの園館存立の基盤となり、その未来を切り開く原動力になる。
そう感じ始めた関係者が、積極的に「意見表明」を始めた。たぶん、そういうことだと思います。

さて、最後に、再び本書のことに戻りましょう。

冒頭にご紹介した通り、この「水族館学概論」は、現時点では、かなり完成度の高いハードなものです。
真剣に読破するには、よほどの覚悟が要りますよ!
水族館の歴史から経営にいたる、ほとんど全ての項目を網羅していますし、巻末の関連資料や用語、参考文献は充実しています。皆さん、頑張って勉強しましょうね!

しかし、1点だけ、あえて「不満」を述べさせていただきます。

それは、海獣類、海生哺乳類、鳥類が、ほぼ完璧に無視されていること。
「水族」とは「魚類と水生無脊椎動物だけだ」という主張は、ある程度理解するとしても、だからそれだけで「現在と未来の水族館」を語りきれる、と考えるのはいかがなものでしょうか?
これでは、全体が非現実的で、かなり偏向した分析となることを避けられないのではないでしょうか?

とはいえ、この書が、園館について考える際の基本的文献であることに変わりはありません!
皆さんのご健闘をお祈り致します。

コメント / トラックバック 2 件

  1. さかもと より:

    4月1日から この本の著者のおひとり西源二郎先生が、
    葛西臨海水族園の園長になられます。

     上田先生の情報網ならもうご存じだと思いますが(笑)。
    よろしくお願いします。

  2. 上田一生 より:

    さかもと 様

    貴重なコメントをいただき、ありがとうございましたm(__)m!!
    そうですか!西先生が葛西の新園長になられるのですか!!初耳でした(^o^)/
    東京都と動物園協会が推進されている、新しい「園館改革構想」が、西先生の加入によって、より充実したものになることを、大いに期待しております(^o^)v

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