最近のフンボルトペンギン保全に関する新しい動き

2011 年 2 月 26 日 土曜日

ペンギン会議がフンボルトペンギンの保全に関わるようになって、もう21年目です。
というより、ペンギン会議の歩みは「フンボルトペンギン保全の歩み」と言ってもいいくらい、両者の関係は深いのです。

飼育下個体の血統登録台帳作り、野生の生息地への調査旅行=エコツアー実施、チリやペルーの研究者支援(主に個体数調査)、保全推進のための国際会議開催、保全を呼びかけるポスター製作とその提供、現地飼育専門家への飼育技術支援、野外調査への資金・機材支援、チリのメトロポリタン動物園への機材支援…等々

えげつない話で大変恐縮ですが、金額にすると、少なく見積もっても1500万円以上を投入してきました。
手前味噌ですが、小さなNGOにしては、まあまあのできダナ、と考えております。

特に、1996年に横浜で開催した「フンボルトペンギン保護国際会議」は、世界初の試みであっただけでなく、その後のフンボルトペンギン保全の基本姿勢と方向を決定づけるものでした。
この時は、生息地であるチリとペルーの研究者はもちろん、アメリカ合衆国とヨーロッパからも研究者や動物園・水族館の主だった関係者が全て日本に集まったのです。
つまり、フンボルトペンギンの保全は、野生と飼育下の個体群を全て視野に入れながら、国際的協力関係の下に推進する。そういうグローバルなコンセンサスが成立したのです。

その後の様々なやりとりの結果、最近では、次のような動きが具体化しています。

まずは、日本の動きから。

チリのメトロポリタン動物園のスタッフを日本に招き、フンボルトペンギンの基本的飼育技術を学んでもらい、それをもとに、メトロポリタン動物園のペンギン展示施設をリニューアルしました。
皆さんご存じのギジェルモ・クビージョスさんは、その中心人物です。

一方、メトロポリタン動物園と日本の水族館・動物園が、個別に「保全・飼育・教育に関する国際協定」を締結し、相互に情報と技術を交換して、フンボルトペンギンの保全推進をはかる動きが具体化しました。
下関水族館や埼玉子ども自然動物園の活動は、その好例です。

また、フンボルトペンギンの飼育・繁殖に関する高度な技術をもつ日本の専門家を、長期間メトロポリタン動物園に派遣して、直接技術支援を行う計画も実現しつつあります。
おそらく、今年の後半には、専門家がチリに向かうはずです。(この活動につきましては、また稿を改めてご報告致します。)

そして、こうした日本とチリの動きに呼応して、ヨーロッパの園館とメトロポリタン動物園や中南米の園館との協力体制や、新しいプロジェクトが動き始めているのです。

今から6年前、2005年に、中南米動物園水族館協会とヨーロッパ動物園水族館協会との間に、「相互理解に関する覚書」が交わされました。
その中で、「フンボルトペンギンの飼育下個体群管理を確立し、将来の生息域内保全活動を推進する基盤を構築する」ことが合意されました。

ヨーロッパには、現在約1200羽のフンボルトペンギンが飼育されています。
これを母体に、中南米の園館でフンボルトペンギンの飼育下個体群を形成していこう。
個体数の減少が著しい生息地に一番近い中南米の園館で、しっかりした飼育下個体群を確立し、将来あり得る「野生復帰」に備えよう。
両者は、そういう「ゴール」を設定しているようです。

2010年6年3日、ヨーロッパの2つの動物園(フランス)から選抜された合計20羽(♂11、♀9)のフンボルトの若鳥が、中南米への第一陣として、メトロポリタン動物園に到着しました。
この個体が収容されたのが、例の「日本研修の成果をもとに新築されたペンギン展示施設」です。

ヨーロッパからは、飼育技術者は同行しませんでしたから、それ以後は、マウリシオ園長やギジェルモさんの腕の見せどころ、というわけです。
実は、20羽のうち3羽が、やがてアスペルギルスの徴候を見せました。
この時、治療にあたったメトロポリタン動物園の獣医師は、下関水族館やペンギン会議に助言を求めてきました。

我々は、素早くこれに応え、その後間もなく、3羽は回復しました。
写真は、2011年1月のメトロポリタン動物園のペンギン展示施設の様子です。
施設には、フンボルトペンギンの生態についての解説や、彼等がフンボルトペンギンの保全に取り組んでいることを説明するサインが、デカデカと掲げてありました。

2011年1月のメトロポリタン動物園のペンギン展示施設の様子1 2011年1月のメトロポリタン動物園のペンギン展示施設の様子 2011年1月のメトロポリタン動物園のペンギン展示施設の様子3 2011年1月のメトロポリタン動物園のペンギン展示施設の様子4

ヨーロッパ動物園水族館協会は、今後、さらに5ヵ所の中南米の園館に、同じようにフンボルトペンギンを提供していく予定です。
メトロポリタン動物園で確立された、ハード、ソフト両面の技術が、他の施設にも伝えられていくのです。

こうして、チリのメトロポリタン動物園を拠点として、フンボルトペンギン保全の新しい「グローバルネットワーク」ができあがり、始動したのです。

野生動物の保全にとって最も重要なことは、生息地の人々が「本気になって動き出すこと」です。
幸いなことに、フンボルトペンギンの場合は、チリやペルー、そして中南米の人々が本気になってくれました。
今後、いくつもの厳しいハードルは出てくるでしょうが、中南米の人々のヤル気を「グローバルネットワーク」で支えていくことは可能だと思います。

長い道のりでしたが、フンボルトペンギンの保全活動は、20年以上かかって、今ようやく、その現実的なスタートラインについたと言えるでしょう。

これからも、皆様のご理解とご支援を、何卒よろしくお願い申し上げます!

コメント / トラックバック 6 件

  1. penguinman より:

    お早うございます。新たな時代に入りますね。私が初めてメトロポリタン動物園のギジェルモ、マウリシオと交流を始めてから足かけ9年が経ち、その成果が次のステップに向かおうとしていることに本当に良かったと感じています。彼らが本気になったことのきっかけを作ったのは私たちペンギン会議をはじめ日本だと誇りに思います。でも始まったばかりです。これからは更なる他との交流も目指して、チリでの協力活動を中心に派手さはなく地味ですが、でも継続していくことを心情に活動していきます。

  2. 上田一生 より:

    penguinman 様

    いつもコメントをありがとうございます(^o^)/

    penguinmanさんの「チリ訪問」も、17年目ですか?スゴいですねぇ〜(^o^)v
    「継続は力なり」という金言は、ここでも生きていると思います!

    野生動物の保全は、他の例を見ても、「時間とお金と膨大な手間」がかかります。
    また、1人だけでは、たぶん何もできないでしょう。

    さらに、「百万の美辞麗句より1つの実行」の方が、大きな効果を上げます。
    21年間には、かなりの前進もありましたが、痛い失敗もありましたね。

    今後とも、メゲズに頑張っていきましょう(^o^)/

  3. penguinman より:

    お早うございます。おっしゃるとおり、一人の力は限界があります。1993年に初めてチリへ行った突破口を開いたそのことをリスペクトしながら継続してきました。でもその一人の力が次の大きな力を生むこともどうかお忘れなくお願い申し上げます。One for all, all for one !!!! 頑張りましょう!!!

  4. penguinman より:

    何度も恐縮です。もちろん、これからもずっとPCJの一員として全ての事に
    リスペクトしながら、それを忘れずに頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

  5. 上田一生 より:

    penguinman 様

    重ねてのコメント、ありがとうございます(^o^)/

    penguinmanさんの活動、もちろん!力一杯お願い申し上げますし、応援致しますよm(__)m!!
    と、同時に、これまでのpenguinmanさんの活動を、昔から順に、「物語風に」ご自身のブログに書かれてはいかがでしょうか?(^o^)v
    楽しみにしております(^o^)/

  6. penguinman より:

    コメントをありがとうございます。そうですよね〜〜〜〜!!!ブログでしなきゃいけませんよね〜〜〜!!!

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