南アフリカ沿岸鳥類保護財団(SANCCOB)からの「新たな重油流出事故」に関する最新情報です

2021 年 11 月 27 日 土曜日

2021年11月18日(木)付で、SANCCOBのホームページの「最新情報」として、南アフリカ・アルゴア湾内での重油流出事故に関する最新情報が発表されました。

まず、SANCCOBのスタッフ、ロニス・ダニエル氏による情報の概要をまとめます。

1、2021年11月17日(水)、南アフリカのケープ州東部海岸、アルゴア湾内で、クロアチア船籍の貨物船「ソリン号」が重油燃料補給船から燃料補給を受けていたところ、大量の燃料用重油が流出した。

2、南アフリカ政府は、「重油流出対策法」に基づき、その日の内に、SANCCOBを含む関係諸機関・専門家からなる「対応チーム」を招集・編成して、現地に送り込んだ。

3、流出重油の一部は、「渡り鳥保護区」やケープペンギンの主要な繁殖地の1つであるサン・クロワ島に接近しつつあり、天候や風向きによっては、島に漂着する恐れがある。

4、現地に派遣された「対応チーム」は、専用船舶や航空機を装備し、重油汚染された海鳥を長年救護してきたベテランスタッフが揃っているので、今のところ、対策は十分だと思われる。

SANCCOBからの公式情報は以上の通りです。

今回の新たな重油流出事故の特徴と問題点について、背景も含めながら、まとめてみます。

南アフリカ沿岸で、周辺の海洋生態系に甚大な被害をもたらした「大規模な油汚染事故」は、1960年代以降、合計 16回起きています。最近では、1994年の「アポロシー号事件」、2000年の「トレジャー号事件」がよく知られています。ペンギン会議では、どちらの事件でも、日本国内で募金活動を実施したり、現地に救護活動スタッフを派遣したりして、支援してきました。

また、南アフリカでは、大事故だけでなく、小規模な重油流出事故や「廃油などの不法投棄による油汚染」が、日常的に発生しています。SANCCOBの常設救護施設には、年間 数百羽のケープペンギンを含む様々な海鳥などが運び込まれ、手当てを受け、リリースされているのです。

ところが、2010年代以降、これまでの状況に変化が生まれてきました。気候変動による餌生物(イワシなどの小魚)の減少や分布域の変化によって、ケープペンギンや他の海鳥の生息域や繁殖地に大きな変動が起きているのです。例えば、南アフリカにおけるケープペンギンの主要な繁殖地は、南アフリカ西部=ケープ州西部でしたが、今では、その中心が東=ケープ州東部に移動しています。

今回、重油流出事故が発生した地域=アルゴア湾は、ポート・エリザベスの東に位置し、ケープペンギンの主要な繁殖地、サン・クロワ島とバード島がある海域なのです。ちなみに、現在、「南アフリカにおけるケープペンギンの4大繁殖地」は・・1位 サン・クロワ島(東ケープ)、2位 バード島(東ケープ)、 3位ダッセン島(西ケープ)、 4位ロベン島(西ケープ)です。

さらに、実は、そのサン・クロワ島の個体群は、ずっと減少し続けているのです。詳しくは1950年~2010年までのデータ(グラフ)をご覧下さい。また、最新の調査によれば、サン・クロワ島のケープペンギン個体数は、2019年には 3638つがいでしたが、2021年には 1500つがいに減っています。この状況はバード島でも同様です。

もう一つ注意を要するのは、東ケープ地方=コエガ・ネルソンマンデラ湾からアルゴア湾にかけての沿岸部は、近年、石油基地・天然ガス基地として大規模な開発が進み、石油化学工業地帯として発展してきていることです。従って、大小様々な船舶の航行が急増し、今回のような「燃料用重油の給油事故」や船舶の座礁事故が多発する恐れが高まっています。

そのすぐ目の前に、絶滅の危機に直面しているケープペンギンの二大繁殖地がある。そういう新しい状況の中で、今回の事故が起きている。その現実を冷静に理解し、どのような対策が最も適切か?長期的な視野を忘れることなく、考えていく必要があると思います。

今後の状況につきましては、適宜、ご報告して参ります。

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